劇団ハイバイを主宰されている岩井秀人さんの作品がずっと気になっていて、今回初観劇をしてきました。
「おとこたち」はハイバイの劇団公演として2014年、2016年にストレートプレイとして上演したのち、前野健太さんの音楽で、今回、ミュージカル版として上演されました。
内容は、愛、不倫、老い、病、死、暴力など、現代の“おとこ”なら誰にでも起こりそうなさまざまな出来事を、4人の個性溢れる俳優人が演じる人間ドラマです。
今回は、ストレートプレイとして作られた作品のミュージカル化、更には日本人が脚本演出をするミュージカルについて、私の考察を書いていきます。
ストレートプレイとミュージカルの違い
〈ストレートプレイとは〉
台詞に音楽などを用いない会話劇、いわゆる一般的な舞台演劇のことを意味します。
「正劇」「台詞劇」とも言われます。
〈ミュージカルとは〉
つまり、簡単に言うと、歌があるか無いか。
でも私は、ミュージカルは総合芸術だと考えている為、単純に歌、台詞、踊りが含まれているだけの劇をミュージカルとは言えないと思うのです。
芝居、歌、ダンスがそれぞれ独立したものでなく、感情的要素と物語を組み合わせ、全体として言葉、音楽、動き、その他エンターテイメントの各種技術を統合し、一体となって劇的効果を高めているのがミュージカルの特徴だと思うのです。
今回の「おとこたち」は、作品自体素晴らしかったし、実力派俳優さんたちの演技には、本当に心を打つものがありました。
ただ、ミュージカルと言われると ・・・???
というのが私の正直な感想です。
このことを、ストレートプレイとミュージカルの表現の違いについて
日本と欧米のコミュニケーションの違いから考えてみました。
ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化
これは、1970年代に文化人類学者であるエドワード・T・ホール氏によって提唱された概念で、国や地域におけるコミュニケーションスタイルの特徴を表すものです。
〈ハイコンテクスト文化〉
空気を読む文化。間接的。
前提となるお互いの文脈(言語や価値観、考え方など)が非常に近い状態のことで、コミュニケーションの際に互いに相手の意図を察し合うことで、「以心伝心」でなんとなく通じてしまう環境や状況のこと。
〈ローコンテクスト文化〉
言葉で伝える文化。直接的。
前提となる文脈や共通の価値観が少ない状態のことで、形式的な言葉や飾り立てた表現は必要なく、問題とその解決策を端的に言語で表現する。また、受け手は言語で表現された内容だけを文字通りに理解する傾向がある。
日本の演劇は、歌舞伎から新劇に至るにあたって、現代のリアルな人間描写を重視してきたことにより、ハイコンテクスト文化である、日本人固有のコミュニケーションが脚本の土台になっていると思うのです。
だからこそ、表情や間、声の抑揚や動きによって、台詞にはない人物の心情や物語の背景を伝えていきます。
しかし、ミュージカルの起源がオペラやオペレッタであるということは、ミュージカルとはローコンテクスト文化の欧米で発展してきました。日本人にとって、その台詞はとても直接的だと感じる事が多く、更には、歌の歌詞となると、日本人が言葉にするのをためらうほどの心の内を、ストレートな言葉で表現するだけでなく、音楽やダンスの力によって、更に誇張された表現になることも多くあります。
個人的には、この現実離れ(日本離れ)した世界に連れて行ってくれるミュージカルが大好きなのですが、今回の作品では、この文化の違いに、違和感を感じてしまったのだと思います。
リアルを求める日本の演劇の中で、
「愛してる~」や「苦しいよ~」などストレートな心の内を歌にされていしまうと「いやいや、日本人そんな事言わないでしょ~!」と思ってしまったのです。笑
ミュージカルではなく、音楽劇として観たら良かったのかな?
以上、ミュージカル大好きなボイストレーナーの
勝手な考察でした。
音楽の表現は、歴史や背景を知ることで更に深まっていきます。
是非、いろいろな方面からの音楽を楽しんでいきましょう!
Comments